羊草ーひつじぐさー

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遠い街


 堀井和子さんの「ヴァカンスのあとで」を読んでいたら、もう、数え切れないくらい何度目かなんだけど、盛岡へ行きたくなった。

 行ったことのない街。
 遠い街。


 私がよくイメージする、「どこかの次元にすでに存在する自分」の一つが、いつも旅人である自分。

 私は年中旅している。
 私は勘のいい旅人で、どこの角をまがればその街の「いいもの」「いいこと」に出会えるのかよく分かっている。
 一人でたくさん歩き、おいしいものを味わい、よそ者だからわかるその街の匂いを、文やカタチにして人に伝えたいと思う。
 気が向いたら列車に乗り込んで、時間にとらわれず身軽にどこへでも行く。
 旅は私にとって、散歩の延長のようなものだ。


 想像できる自分の姿は、どこかの次元にすでに存在する自分であり、それはいつかそうなれる自分である。
 





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 盛岡在住の戸村茂樹さんの版画。






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 ますます盛岡への思いが募るなぁ。





 


 








 
by hituji-gusa | 2012-01-10 23:13 | もの

まばたきとはばたき


 世界は私と同じ目線の上にしか存在しないと思っていた。

 風景も、かかわる人も、そこにあるように見えるから間違いなくそこにある。
 星がまたたく宇宙はいつも自分の上にあり、地上に立って仰ぎ見ることしかできない。

 いずれにしても、私の外に見えている世界が「世界」である。

 単純にそう信じていた。




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 でも、本当は自分の中にこそ広大な世界があって、外に見える世界は、自分の内なる世界のごくわずかな一部分が見せる、幻のようなものかもしれないと思い始めた。

 内なる広大な世界に目覚めてしまうと、外なる世界を自由にデザインすることもできるかもしれない。 

 私たちは瞬時に移動して、天空から地球を大きな目で自由に俯瞰することもできるし、地球上に存在する、いとおしいカタチをしたモノに視点を移して、ミクロのまなざしでそれと一体化することもできる。
 大きな世界と、小さな物質を、この世の概念をはずして一緒に存在させることもできるだろう。

 宇宙を航行するうつくしいアルミのスプーンを目にすることもできるだろうし、太平洋に半分身体を沈めた月を半月と呼んで、暦を書き換えることをするかもしれない。


 この人のなかではこういうことが起こっているのではないかな。






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 「ファスナーの船」

 飛行機の窓から東京湾を見下ろしたとき、海を進む船と航跡がファスナーのように見えました。
 それをきっかけにラジコン式のファスナーの船をつくり、公園の池の水面を「開き」ました。
 本物を違うのは、常に進むルートが決まっていないこと。



 実際、このファスナーの船は、瀬戸内海を人を乗せて「開いた」。
 

 さらに大きな旅客船に拡大して外海を開くことを夢見ています。
 あるいは小型のボートをつくり、澄んだ湖を静かに開いてみたいとおもっています。
 大陸の内側と外側、双方から地球を開いていくイメージです。







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 「りんごの天体観測」

 りんごの表面にある無数の斑点が星座のように見えました。
 中空のりんごの模型をつくり、表面に無数の小さな穴を開けて光源を仕込みます。
 すると穴から細い光が放射され、回転するスクリーンに無数の星々が浮かびあがりました。 



 今見ているのは、地球上にある無数のりんごのどれか一つから放たれた星空かもしれません。
 それをみつけて食べてしまったら、星空は消えてしまうのではないかと妄想を膨らませました。
 これまで地球上に生まれたりんごの中に、地球から眺めた星座と同じ「星座」をもったりんごがあったかもしれません。



 私は昔、りんごそのものが実は一つの宇宙かもしれないと思ったことがある。
 つやつやした赤い皮の内側には、私たちが住む宇宙と同じ単位で一つの宇宙が存在していて、私たちは何の気なしにそれを食べては、一つの宇宙をあっさり消し去っているのではないかと。






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 「スープの満ち欠け」

 スープが残りわずかになると、無意識にお皿を少し傾けたくなります。
 ある時、お皿の隅にのこったスープが三日月に見えました。
 スープの皿の底をあらかじめ傾けて、断面の形状を絶妙にコントロールすれば、その時々のスープが月の満ち欠けのように見えるのではないかと考えました。


 スープの月も本物の月も同じように地球に引かれています。
 スープ皿の底を這うように変化していくスープの形を眺めていると、潮の満ち引きなど、月と地球の引力の関係を連想しました。
 


 むむむ。





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 この本を読んでいると、なんだか懐かしくなる。

 子供の頃に住んでいた世界はこういうところだったような気がするから。


 概念のない世界から吹いてくる、かろやかな風のような。
 なつかしい意識からの、たのしいたのしいお手紙のような。

 そんな本。


  
  
                「まばたきとはばたき」  鈴木康弘  青幻舎
 



 
by hituji-gusa | 2012-01-04 21:17 | 読書の時間